変わるメディアと情報収集 これからの「キュレーション」を考える

情報が溢れる現代社会。新聞や雑誌、テレビなど旧来のメディアに加え、ウェブニュースやSNSが登場し、私たちが触れる情報は膨大な量になり、さらに増え続けています。価値ある情報を見つけ出すためには、どのような力がいるのか。さまざまな角度から情報と関わってきたメディア人に聞きました。

内外切抜通信社 若手社員が聞く!
キュレーションに必要な力

メディアの変化に合わせてクリッピングサービスを進化させてきた内外切抜通信社。今後のクリッピングに求められるものを、若手社員が内沼さんに聞きました。

売れるのは「おもしろい本」ではなく、「おもしろそうな本」

内山 内沼さんは本のキュレーションを仕事にされています。ものすごくたくさんの本が日々出版される中で、すべてを読めるわけではないのに、場面に合わせておもしろい本を並べることができる。その嗅覚のようなものはどう鍛えているのでしょう。

内沼 たくさん本に触れることです。どんな本屋さんも言うのですが、「お客さんのほうが詳しい」んです。お客さんはそれぞれですから、特定の分野なら、詳しい方のほうが書店員よりも詳しい。けれど、「たくさんの本に触れている」という点では書店員のほうが勝っています。書店員がすべてを読んでから売ることができないのと同様、お客さんもすべて読んでから買うわけではなく、読む前に買うわけです。つまり、売れるのは「おもしろい本」ではなくて「おもしろそうな本」。その「おもしろそう」「重要そう」という勘が、たくさん触ることで、鋭くなるのだと思います。

内山菜生子(うちやまなおこ)1989年東京生まれ。2012年入社。クロスメディア戦略部に所属し、ウェブニュースのクリッピングや広告換算、サマリー制作に携わる。

内山 選書で冒険して失敗したことはありますか。

内沼 あまりないですね。きちんと考え抜いた冒険なら、すべきだと考えています。選書というのは、すでにある需要に合わせて絞っていくものではなく、世界を広げていくものだと思っていますので。

内山 たとえばどういうことでしょう。

内沼 いま、青森県の八戸市で行政と書店を作るプロジェクトをしています。地方都市に共通する問題として、そもそも店頭に並ばない種類の本がある。もちろんアマゾンでは注文できるのですが、たとえば書店には海外文学の棚がない。八戸市に書店は十数軒あり、不毛地帯というわけではないのに、海外文学をまともに取り扱う書店がないんです。それは需要がないからですが、書棚がなければ需要の起こりようがない。

内山 そのとおりですね。

内沼 ぼくは、書店は人が世界の広さを認識する場所だと思っています。書店を一周するのは、いちばん身近な世界旅行です。そんな中、地方都市の需要に合わせて絞られた書店は、需要のないものが切り落とされて、その世界がとても狭くなっている。マニアックな海外文学を八戸に持ってくることは、ビジネス面だけみると冒険かもしれない。でも、店頭にないかぎり、八戸の多くの人はマニアックな海外文学が「ある」ことを知らないままです。すでにある需要だけをみると棚から切り落とされてしまうそうした本を手に取る可能性を、分類や陳列の工夫によって生み出せることが、選書の醍醐味だと思っています。

世の中に対して価値があることなら、いつかお金になる

内山 仕事術についてお聞きしたいです。内沼さんはさまざまなプロジェクトに関わり、楽しそうに働いていらっしゃいます。きっと「新しいことができそうだ」とひらめく瞬間があると思うのですが、それをどうやって仕事としてお金をいただける形にしているのでしょう。

内沼 世の中に対して価値があることなら、いつかお金になるんです。なので、当たり前の話ですが、上司にプレゼンするときに「この仕事はいずれ大きな収益になりますよ」という絵をいかに描くかですよね(笑い)。もちろん情報を集めて勉強して、裏付けをする必要はあります。その努力なしに自分の仕事がつまらないと言ってはいけません。

内山 その通りです(苦笑い)。私はいま会社員という守られた立場で働いていて、たとえばおもしろそうな仕事をやろうとして失敗したところで、お給料は毎月いただけます。内沼さんはフリーという立場で、成功するかどうかわからない新しいことにどんどん挑戦されています。商売の勘があるのでしょうか。

内沼 いまはフリーではなく会社にしていて数人でやっていますが、いろんな業種からいろんな役割を求められますし、月額の契約もあれば単発の大きめの仕事もあります。投資のポートフォリオを組むようなもので、分散させればリスクが低くなる。そういう点で言えば会社員のほうが、クビになれば100が0になってしまうし、成長がひとつの環境に委ねられてしまうのでリスクが高い。ぼくのほうが内山さんよりよっぽど安定しているとも言えます(笑い)。ひとつの仕事がなくなっても、店が大赤字になっても、ほかで埋められますから。

内山 著書「本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本」でも、「お金をもらえないけれど好きな仕事」をやるには「お金をもらえてしまうけれど好きではない仕事」もやりましょう、と書かれていましたね。

内沼 お金のことだけ考えていると、楽しくなくなってしまうときがあります。そういう中に、まったくもうからない、むしろお金が出ていくけど、おもしろいと思える仕事も入れています。お金にならないことは、誰もやりたがりませんから、人より目立つ。その結果、巡り巡ってお金をいただける仕事が別のところからやってくる。実はバランスを取っているんです。

クリッピング会社に求められる、情報収集への姿勢

内山 内外切抜通信社が、今後よりお客さんに喜ばれるような情報を集めるヒントを教えていただけますか。

内沼 事業領域を定めすぎないことでしょうか。お客さんは本来、新聞や雑誌、ウェブメディアの情報だけを求めているのではないはずです。たとえばSNSで適切な情報を抽出するための検索ワードについて知見を持ったり、現場に出て新たな一次情報まで採取したり、情報抽出のためには何でもやりますというふうに拡大するとか。

内山 記事の掲載実績をくまなく確認することも私たちの根幹業務ですが、それだけがこの先いつまでも求められるとは思っていません。さらに、インターネットのブラウザーではなくアプリでニュースを見る人が増えるなど、メディアも読者も大きく変わっています。これまでもキュレーションサイトやSNS上の情報を調査の対象に加えるなど、時代に追いつく努力をしてきましたが、今後もそれを続けていかなければいけないことは確かです。

内沼 新しいメディアが出てきたら、そのメディアについて、まず「自分たちは検索のプロ」と名乗れるようになればいいと思います。とにかくサービスを始めてしまい、そこから質を上げる努力をしてもいい。入念な準備をしている間に、はやりのメディアが変わってしまうなんてこともよくあるわけですから。

内山 慎重になりすぎることなく新たな仕事に取り組み、時代の流れに合わせてサービスを充実させていくということですね。これからも状況は変わっていくと思いますが、常にそういう姿勢でありたいです。ブックコーディネーターという新しい職業をつくって、自ら仕事を生み出してきた内沼さんのお話、身にしみます。今日は、本当にありがとうございました!

この記事は2016年5月に毎日新聞のサイトに掲載したものを再録しております。
内容、経歴などは掲載当時の情報となります。