
約2,000もの新聞・雑誌を読んで情報をまとめる“クリッピング”の仕事とは? プロゲーマーライターが潜入調査!
あらゆるメディアの情報を
収集する職人集団
毎日のように発売される新聞や雑誌をはじめ、ウェブメディアやSNSに至るまで、現代は膨大な量の情報にあふれている。その中から自分にとって必要な情報をピックアップして集めるのは至難の業。プロゲーマーとして活動する傍ら、ライターとしても活動する筆者すいのこも、記事作成にともなう情報収集をよく行うのだが、本当に骨の折れる作業だ。
そんな手間暇かかる情報抽出の作業を代行してくれる「クリッピング」なる仕事があるそうだ。一体どのような仕事なのかを知るため、クリッピングを専門とする内外切抜通信社へ向かった。

内外切抜通信社は1939年創業。80年以上の歴史を持つ会社だ。20代から40代の比較的若い世代が社員の大多数を占めている。
オフィスに入ってまず目に飛び込んできたのが、新聞や雑誌、PCのディスプレイを凝視する社員たちの姿。静かな空間の中、極限まで集中して記事や紙面の情報を追いかけているその様子は、さながら受験を控えた図書室のようだ。彼らはリサーチを行う調査担当と呼ばれる社員だと、営業部の西川さんは説明する。
西川1日のほとんどをひたすら読む作業に費やします。担当は大まかに新聞、雑誌、ウェブの3部門に分かれます。どんな風に仕事を進めるのか、実際にクリッピングの仕事を体験してもらいましょう!
プロゲーマーライターが実際に
クリッピングを体験!
まず体験したのは、新聞のクリッピング。教えてくれたのは、制作部・新聞調査担当の相澤さんだ。
相澤新聞をただ読めばよいというわけではなく、依頼を受けたキーワードに関する記事がないか調べています。記事のタイトルや中身はもちろん、掲載されている広告やプレゼントの商品、お悔やみ欄に至るまでチェックします。
体験その1 新聞クリッピング
15分以内に12紙から「eスポーツ」に関する記事をピックアップせよ!
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【全国紙】
毎日新聞
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【スポーツ紙】
スポーツ報知、サンケイスポーツ
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【地方紙】
熊本日日新聞、佐賀新聞
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【業界紙】
日刊自動車新聞
体験その2 雑誌クリッピング
10分以内に10個のキーワードを見つけ出せ!
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【対象の雑誌】
『DIME 2・3月合併号』(小学館)
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【キーワード】
「コロンブスの卵」「さいたまスーパーアリーナ」「りんご」
「ふるさと納税返礼品」「マカロン」「日本銀行政策委員会」
「竹馬」「メンズコスメ」「しりとり」「レギュレーション」


使用したのは全国紙である毎日新聞の他、自動車関係の専門紙や地方紙、スポーツ紙など。新聞ごとに体裁が異なるため、読み方を変えないといけないのが大変!

高校生eスポーツ大会の記事を発見!
筆者が普段新聞を読む際は、見出しを流し読みしながら興味のある記事のみ本文を読む、という程度。記事はもちろん広告なども含め全てを網羅するのは思っていたよりも時間を要する。結局、制限時間内に読めたのはたったの5部。相澤さんは1つのキーワードであれば同じ時間で全て読めるという。
相澤実際はたくさんのキーワードについて同時並行で調査するので、もっと時間をかけてクリッピングしていきます。今回調べていただいた『eスポーツ』の話題ですが、全国紙の場合だと大規模なイベントが取り上げられがちです。一方で、業界紙の場合はその業界に関連するイベントなどの話題、地方紙の場合は地域社会に根ざした話題が多くなる印象です。同じキーワードでも、掲載される紙面の特色に応じて取り上げ方が変わるのが面白いです。

相澤さんは入社1年目。最初は1つの新聞から読みはじめ、徐々に担当する新聞の数を増やす。3カ月ほどである程度のクリッピングができるようになるそうだ。

読み終えた新聞や雑誌を保管しておく資料室とよばれる場所。この量でも過去3カ月分。
次に体験したのは、雑誌のクリッピング。1部の雑誌の中から、10個のキーワードについて触れている部分を調べた。複数のキーワードを頭の中にインプットしながら誌面を読む作業は想像以上の難易度。結局5個しかキーワードを見つけることができなかった。制作部・雑誌調査担当の吉原さんによると、調査員はなんと常に2,000以上のキーワードを頭の中にインプットしながらクリッピングしているというから驚きだ。
吉原ただキーワードに関連する記事を見つけるだけでなく、例えば『醤油を隠し味に使った料理について』など曖昧なテーマでも対応可能です。


新聞・雑誌担当が1日に読む量は、新聞20〜30部、雑誌10冊程度。ウェブ担当は4,800(2023年3月末時点)以上のニュースサイトやSNSを調査している。
最後にクリッピングした新聞記事を切り抜く、カッティングと呼ばれる作業を行った。四角く切り抜けるものは比較的容易だが、特殊な形状であるものや、写真込みで切り抜かなければならないものは、切り抜くのがとても難しい。ここにも職人芸が詰まっているそうだ。

どこまでが一つの記事かよく確認しながら切っていく。
西川カッティングを担当する方々の記事を切り抜く速度は驚異的。1日に200箇所以上カッティングしています。
多大な集中力を要求されるクリッピングの作業だが、調査員の数は思いのほか少ない。
西川新聞担当は20名、雑誌担当は7名、ウェブ担当は12名で行っています。


クリッピングした記事を保管する棚。顧客別に仕分けている。
ただの“情報”ではなく“知恵”を
提供したい
内外切抜通信社の主要な業務はクリッピングだが、それに加え、メディアに掲載された「記事」を同じ大きさの「広告」として、同メディアに出稿した場合の費用に換算する「広告換算」を行う部門がある。
西川新聞や雑誌の場合、掲載されたサイズを計測し各媒体の広告料金にあてはめて、ウェブの場合は記事での取り上げ方などを考慮して、広告換算値を算出します。ご依頼の多くはPR会社や企業の広報部からのもので、実施したPR活動の評価を数値として算出するために、クリッピングに加え『広告換算』もご利用いただいています。
効果測定の難しい広報やPRの費用対効果が算出できる広告換算を、第三者の立場であるクリッピング会社が行うことにも大きな意味を感じる。

西川弊社の強みはただ情報を集めるだけではなく、広告換算のように目に見えるデータとして提供したり、あいまいな検索条件から、クライアントの要望に応じて必要な情報だけを集約したりできること。これは人の手で情報をきめ細やかに集めているからこそ可能です。
今後は昔から培ってきたノウハウを大事にしつつ、情報の収集だけではない、新たなクリッピングの形を模索していきたいと西川さんは語る。
西川これからさらに情報の量も密度も増していくことでしょう。情報やPRのあり方が変化していく中、弊社としても広告換算に代わる効果測定の方法を模索中です。ただ情報を集めるだけでなく、それらを整理し分析することでより効果的なアクションに繋がると思います。『“Information”から“Intelligence”へ』をキーワードに、情報の持つ価値や可能性を時代に即した形で活用できるものとしてお客様に届けていきたいと考えています。

取材・文
桑元康平
1990年、鹿児島県生まれ。プロゲーマー。鹿児島大学大学院で焼酎製造学を専攻。卒業後、大手焼酎メーカー勤務などを経て、2019年5月から2022年8月まで、eスポーツのイベント運営等を行うウェルプレイド・ライゼストに所属。現在はフリーエージェントの「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズのプロ選手として活動中。代表作に『eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのか』(小学館新書)。
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