西早稲田・高田馬場
2018.03.27
駅から5分の異国体験。高田馬場タックイレブンビル
高田馬場駅から目と鼻の先、早稲田通りを渡ってすぐの位置に建つタックイレブンビル。
11階建てと、駅周辺の中でも高層な建物の一つで、昼間でも真っ黒い外壁から、
高田馬場に数多ある雑居ビルの中でも道行く人の印象に残りやすい。
近年ミャンマーに関する食や文化に触れられる場として、各メディアでも頻繁に紹介されている。
新宿から電車でたった5分の異国体験。
高田馬場に降りたら、まずこのビルを訪れてみるのも、少し刺激的でいいかもしれない。
取材・文:二木章吉(クロスメディア戦略部)
知る人ぞ知る通称ミャンマービル
一般のテナントも入る同ビルだが、
取材時点で10を超えるミャンマー関連の事務所や雑貨店が6階から11階に入居する。
雑貨店も多いフロアでは、1フロア当たり4店入居するという盛況ぶり。
販売する商品は各店とも食品関連がメインで、
私たち日本人にとっては、ぱっと見「違いが分からない感」もなくはないが、
それぞれ通販などのサービス内容や手作り商品を置くなどして、差別化を図っているようだ。
ミャンマー雑貨ワンダーランド
その中で今回は6階にある雑貨店「テットラン」にお邪魔した。
開店からこの春(2018年)で2年を迎える同店。
調味料や常温保存の効く調味料などミャンマーメーカーの商品を現地で仕入れ、販売している。
なんと言ってもミャンマー雑貨店に来て、まず目に入るのが、ビニールに入った葉っぱの漬物のような商品。
これは、ミャンマーの食卓で最もポピュラーなメニューの一つ「お茶の葉サラダ」。
お茶の葉を発酵させ、スパイスなどと合えたものがパッケージされて売っている。
経営する家族に代わり、店頭に立ちよく接客する同店のラミンカさんは
「お菓子や調味料などミャンマーで一般的な商品を置いていますが、店で一番売れるのはお茶の葉サラダ。
調味料なんかは、その辺のスーパーで買える日本メーカーのもので替えが効くけど、
このサラダは日本のスーパーにはないので、みなさんここに来て買っていきますよ」と説明する。
この「お茶の葉サラダ」、ご飯のおかずとしても食べられているが、
ミャンマーの一般家庭では、いわゆる「お茶うけ」としての役割も大きい。
縁側でお茶とともにつまみ、会話を弾ませる―そんな場面にもよく登場するという。
「お茶の葉サラダ」は辛さなど味の違うもの、お茶の葉漬けとトッピングがセットになったものなど、
同店で常時5種類ほどを取りそろえる。
「だいたいミャンマーの人は、辛みの強いのを買われますよ」(ラミンカさん)
同店では遠方に住む人へ商品の通販もしている。
一度でも店で買い物をした人を対象に、電話などで商品の配送を受ける。
意外にも、都心のみならず、ミャンマー出身者は日本各地に住んでおり
「広島とか北海道など年に2、3回しか来られない人が結構いるんですよ」。
通販の利用は多いときで月に数十件あることも。
「地方のミャンマーの人のコミュニティーで(店のことが)口コミで広がっているようです」とラミンカさん。
遠方に住んでいるミャンマー人にとって、同店の通販は願ってもない朗報だったはずだ。
「結構、ミャンマーのお菓子についてお客さんに聞かれるんですけど、まだ乾菓子しかおけていない。
これからは、もっとたくさんの種類のお菓子を置きたいですね」。今後はお菓子の品ぞろえに期待できそうだ。
ミャンマー料理の老舗ノングインレイ
そして、このビルに来た際に、ぜひ立ち寄ってほしいのが、1階にあるシャン料理店「ノングインレイ」。
今年で開店から19年が経ち、高田馬場にあるミャンマー料理店の中で、最古参になる。
テレビや雑誌への露出も多く、昨年末には人気テレビ番組「孤独のグルメ」でも紹介された。
しばしばテレビや雑誌、ウェブニュースで紹介されるため、近年は、「テレビを見て来た」と来店する日本人客や
「孤独のグルメ」のお店巡りをする台湾や中国からの客が増えているという。
店主のサイ・ミン・ゾウさんは、ミャンマーの民主化デモが激化した時期に来日。
故郷のミャンマー・シャン州の味を日本でも提供したい、とシャン料理にこだわって料理を提供する。
ノングインレイがオープンしたころは、このタックイレブンビルにミャンマー関連の店舗は「8階に雑貨屋が1件だけだった」とサイさん。
ここまで数が増えるようになったのは「10年ぐらいまえからかな」。
ミャンマーの中でも北東部に位置することから、シャン料理は、中国・雲南料理と同様「発酵料理の文化が盛ん」とサイさん。
同店の人気メニューの一つ「お米と肉の皮なしソーセージ」はシャン州を代表する発酵料理。
豚・牛の合いびき肉と米を発酵させ、ソーセージに。寒い季節は2、3日程度、暖かい時期は1日半ほど発酵させ、蒸しあげて客に提供する。
本場・シャン州だと「長期間発酵させて、生の状態で食べることが多い。
でも、それだとくせの強い味になるので、店では発酵期間を短くして熱を加えることで日本人が食べやすいようにしているんですよ」。
さっぱりした口当たりのミャンマービールもあるが、ここではぜひ店で漬け込んでいる「シャン酒」も味わってほしい。
シャン酒はまさに「体にいい」といった漢方を思わせるような味わい。
実際に、ミャンマーで売られているブレンドした漢方薬を焼酎に漬け込んでいるそう。
一定期間、漢方を漬け込んだいるため、酒はきれいな朱色になっている。
味と香りが付いているので、人によっては一般的な焼酎よりグイグイと飲めてしまうかも。
飲んだ翌朝、漢方の効果か筆者と同行した同僚はすっきりと目覚められた(あくまで個人の感想です。笑)。
シャン州の食卓に日常的に上がっているシャン豆腐は定番の人気メニュー。
写真は「シャン豆腐」の和え物。日本の豆腐と違い、ヒヨコ豆を使う。
食感も日本のものと違い、少しもちもちした印象を受ける。
豆腐は、店で一つ一つ手作りして提供している。
「材料はひよこ豆、ダール豆、塩だけ。1日中、水につけてから豆乳にして、そこからさらに3時間おく。準備に一番手間がかかるんですよ」と同店のメニューで一、二を争うほどの手間がかかるそう。
写真の和え物は、いろんなスパイスや薬味、ひき肉などが入り、スパイシー。
揚げた豆腐も人気で、そちらは、甘めのチリソースをつけていただく。
麺類も豊富にあり、「モヒンガー」や「焼きそば」、「ミシェ」など10種類以上ある。
20年近く同ビルで営業を続けるサイさんに、高田馬場の印象についても訊いてみた。
「昔は家賃も安かったけど、今は外国人が住んだりお店を出したりするのは難しいかもしれないね」。
山手線沿線、さらに新宿にも近い立地の良さから、やはりテナント料も上昇傾向にあるようだ。
「でも、エスニック料理のブームで新大久保やこの辺にもアジア系の食材を扱う店が増えて、
大分、食材の調達が楽になった。昔は上野まで出かけないと、揃わなかったんですよ(笑い)」。
最後に、サイさん個人の今後の夢についても。
「もう1店、出店したい。それも広くて落ち着いて食事できるお店。できれば東京オリンピックまでに出したいね」。
もちろん、高田馬場にですよね…?と聞くと、そこは現実的な答えが。
「まあ、高田馬場もいいけど、今はもう家賃高いし、場所もないしで難しそう。だから高田馬場にはこだわらないかな」と話してくれた。
生き馬の目を抜くめまぐるしさで日々、飲食店が出店・閉店する高田馬場を長く見てきた経営者として、そこは静観して判断しているようだ。
■タックイレブンビル
東京都新宿区高田馬場2-19-7
JR山手線高田馬場駅 徒歩1分
1979年竣工 地上11階
■テットラン(TET LANN)
タックイレブンビル6階
■ノングインレイ (Nong Inlay)
タックイレブンビル1階
http://nong-inlay.com/
written by naigai